YUKISISでは、2月20 日(土)－3月5日(土) グループ展 "静かな奥行き"を開催いたします。

主に平面作品を制作する林明日美（版画）、 村瀬都思（絵画）に加え、工芸やクラフトの分野で活躍しながらも平面表現に通じる作品制作を続ける川名萌子（陶）、八木麻子（ガラス）、それぞれ作品のジャンルが異なる４人が、共通のテーマのもとで展開いたします。

 

見つめることで平面の奥に広がる世界

 

この展示のタイトルである「静かな奥行き」とは一体どういう意味なのでしょうか？

 

静かな、という部分は二つの意味を含んでいます。
その一つは、立体ではない、"平面での表現"ということです。日本での平面作品による表現は彫刻作品、特に仏像が担っていた宗教的な表現とは別の道をたどり、日本画や浮世絵など特権階級だけでなく民衆にも愛され、独自の進化を遂げてきました。日本人にとって平面作品は美術に触れるもっとも身近な形であり、違和感無く日常に溶けこむ形と言えるのです。

 

二つ目の意味は、見つめることで深まっていく、ということです。
抽象的な表現ですが、平面作品はその作品を見る者を日常とは別の世界へ繋げる入り口や窓のように存在し、見る者がまなざしを向ける事で初めてその存在の意味を成します。立体作品のように存在感を放つのではなく、そこに佇み、見る者がやってきて足を踏み入れたり、窓を開いてくれるのを静かに待っているのです。

今回出品する作家たちが作る平らな面の奥には、素材が生みだす奥行きや、それぞれの作家の精神性をも反映した物理的な現象を超えた奥行きが静かに広がっています。飾りやすく親しみ易い平面作品でありながら深みを持つ作品群を是非ご覧ください。

 

 

穏やかでありながら見飽きる事のない作品たち

 

八木麻子 の作品は、ガラス工芸の技法の中でも「 キルンワーク 」という技法で制作されています。板ガラスを使ったフラットな作品群は一見スタイリッシュで無機的な印象を受けるかもしれませんが、よく見ると色ガラスの粉で着色された質感はひんやりとした中にもやわらかな奥行きを感じさせます。

川名萌子 は陶芸でありながら平面性を生かした作品を制作しています。今回は 陶板 を中心に展示する予定です。板状にした土に輪カンナという道具を使い凹凸をつけ、釉薬をかけて模様を浮かび上がらせています。そこには分かりやすいモチーフは描かれていませんが、一点物の絵画のように全てが微妙に違うその模様は、陶器ならではの独特の質感に加え、作家の感情の痕跡をも感じさせる作品となっています。

 

林明日美 は銅版画の中でも メゾチント という技法を使い制作をしています。腐食液は用いずロッカーという専用の道具を用いて銅板に無数の傷をつけ、ヤスリのようなザラザラの下地を作り、それをバニッシャーという金属の棒でなめしていくことで製版を行います。インクを詰めて刷り上げた際の独特の深みを持った黒は平らであるはずの画面に不思議な奥行きを感じさせます。

 

村瀬都思 は エアブラシ を用いて時には画面に直接触れることなく作品を作っています。在学時は日本画を学んでいたという作家が最終的にたどり着いた抽象的なモチーフで構成される画面はじっくりと視線を送るほどにその奥行きが揺れ動き、微妙なバランスによって成り立つ平面作品ならではのおもしろさを感じさせてくれます。

 

作家４人のそれぞれのアプローチの中から是非、お気に入りの一点を探しにお越しください。